TOP INTERVIEW 2025

『釣具新聞2025新年号』より ※記事のご提供:名光通信社様

 2025年の元旦にあたり、社員の皆様とともに初売りを迎えることができました。たくさんのお客様にご来店頂き心より御礼申し上げます。本年も変わらぬご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。さて、昨年は私たちを取り巻く環境が急激に変化しました。釣り場の減少、猛暑、大雨、地震、物価高など、さまざまな困難がありました。釣具市場についても売上高が減少し、コロナ禍以前と比べて厳しい状況に直面しています。私たちの自助努力が足りない部分があれば必死で補わなければなりませんが、それを超える対応が求められる事態にも直面しました。10~15年前とは全く常識が異なる世界にいるのです。

そのような中、昨年を振り返り特に感じられたこととして、以下の5つを挙げさせていただきます。

 【昨年特に感じられたこと

 1. コストの増加
 人件費、光熱費、決済手数料、運賃、家賃や修繕費、集客のための販促費用、ポイント付与費用など、あらゆるコストが上昇し続けています。

 2. 価格競争による収益力の低下
 昨年はお客様の来店客数が減少しました。これまで売上の大きな部分を支えていただいていたコア層のお客様も、景気の影響やお買い物疲れなどで来店頻度や購入点数が減少している状況です。恐らく、釣行回数も減っておられるのではないかと思います。また、猛暑や釣り場の減少などの影響で、初心者層の方のご来店も減少しています。
こういった状況を需給のバランスで見ると、供給過多が避けられず、小売店同士の価格競争が激化します。その結果、値引きや割引によって収益力の低下が進み、売上高が伸びづらい状況で利益も取りにくいという二重苦、三重苦の状況に陥っていました。

 3. 資金回収効率の悪化
 当社では新製品で売上を作る要素が高いため、これまでメーカー様が提供する新製品を数多く仕入れてきました。実際には仕入れた新製品が店頭で残り続けることもありますが、それでも得られた資金を新製品の仕入れに回してきました。しかし、売上の減少に伴い、仕入れた商品が現金化されるまでに一定の時間がかかるようになり、デッドストックが増加する傾向が顕著になっています。さらに販促活動や商品管理に伴うコストも増加した結果、経費がかさむ一方で資金回収の効率が低下するという悪循環に陥っています。市場が右肩上がりだった時代には、この方法は適していたかもしれませんが、現状を踏まえると、これまでの戦略を見直す必要があります。

4. 非効率な早朝や夜間のオペレーション
 小売業は労働集約型の業種です。店舗運営には多くの人材が必要ですが、お客様が減る夜間や早朝のオペレーションはどうしても非効率になりがちです。実情に合わせた見直しが必要であり、店舗ごとにしっかり利益を出せる仕組み作りが求められます。

 5. 賃金と採用コストの上昇
 賃金が上昇しているほか、採用コストも増加しています。それにも関わらず、採用が難しい状況が続いており、特に高卒の方の応募が減少しています。
昨年はこのように多くの課題が私たちに突きつけられました。市場の流れが変わる中で、値下げや割引販売によって利益が押し下げられ、集客のためのキャンペーン費用も増加し続けています。この状況が続けば、事業の存続そのものが危機にさらされる可能性もあります。利益を生み出すための構造改革が絶対に必要だと改めて気づかされた1年でした。

【2025年力を入れる取り組み

 昨年のテーマは「整」でしたが、今年は「改」を掲げました。これまで行ってきた改善を加速させ、本流となる改革へとステージを引き上げていきます。
改革の目的は、利益をしっかり確保し、給与水準を引き上げられる会社へ変革することです。今後も人口減少が進む中で、人材確保はますます難しくなり、賃金の上昇も避けられないでしょう。その時代に対応した販売活動へと改革していかなければなりません。

今年は以下の6つの重点項目に注力していきます。

 1. 利益創出のために販売活動を見直す
 利益率の高い商品やサービスに重点を置き、マーケティングや販売戦略を最適化します。商品の中で利益を生み出しているものを特定し、それらを主力商品として推進することで、売上と利益の向上を図ります。
たとえば、当社では、一昨年からエサ部門に力を入れていますが、これは利益面の改善だけでなく、お客様に、魚を釣りやすいエサを使って、実際に現場で釣果を手にして頂き、次に繋げて欲しいという思いがあるからです。エサ釣りに関しては今年も引き続き強化していきます。
マーケティングでは、プロモーションのターゲティング精度をデジタル技術で向上させ、過去のキャンペーン成果を分析し、最も効果的なキャンペーンに注力します。 

2. コスト管理の強化
 適正在庫の維持とデッドストックの削減に努めます。小売業では人件費がコストの大部分を占めますが、これを適正化するため、労働効率を一層向上させます。POSシステムを活用し、ピーク時に最適な人員配置を行うほか、顧客の滞在時間に合わせた勤務体制を構築していきます。
さらに、業務の自動化と効率化を進める一環として、新しいレジシステムを導入します。これにより販売員の負担を軽減し、余剰時間を社員研修などに活用することで、お客様へのサービスの質を高めます。
物流についても、今まで以上に効率化を図り、コスト上昇に対応できる体制を整備します。 

3. リアル店舗だからこそできるサービスの価値向上
 釣り人は地域や釣り場、つまりローカル情報を基に行動するため、その情報を迅速に収集し、社内で共有してお客様に提供する仕組みを構築します。また、リアル店舗で求められるアフターサービスについても、引き続き注力していきます。
当社では3年前から「マイスター制度」を設けています。現在、「接客」「レジ対応」「売り場作り演出」「アフター・カスタムパーツ」「フィッシング」の5つのマイスターがあり、若手社員のやる気を引き出し、手本となる存在を育成しています。マイスターを目指すことで、スキルアップの機会を提供するとともに、社員一人ひとりが自信を持てる仕組み作りを推進しています。

 4. DXを活用し無人店舗の価値を高める
 当社では「いつでも餌蔵」という無人店舗を展開しており、現在7店舗を運営しています。この無人店舗のサービスをさらに向上させるとともに、AIを活用したアバターによる接客サービスの研究に着手しました。AIに釣具店員の知識や接客技術を学習させることで、ある程度の接客を可能にする取り組みを進めています。
 一方で、釣具店ならではの有人接客の重要性も認識しています。有人サービスは徹底的に質を高めると同時に、省人化できる部分はデジタル技術を活用して効率化を図ります。こうした取り組みを進めることで、お客様の視点に立ったサービス提供を目指します。

 5. 西日本釣り博2025
 おかげさまで今回は過去最大の出展者数での開催が決定しました。多くの企業様にご出展いただき、厚く御礼申し上げます。目標の来場者数は33,000人と設定し、西日本釣り博の成功に向けてタカミヤ一同全力で取り組みます。
昨年の9月は天候の良い週末にお客様の動きが活発でした。家族で楽しむ思い出作りとして釣りが選ばれるケースも増えています。西日本釣り博を通じて、より多くの方々に釣りの魅力を伝え、釣具業界全体に明るい兆しをもたらすイベントにしたいと考えています。

 6. 釣り界全体の活動に協力
 日本釣振興会、日本釣用品工業会、LOVE BLUE活動など、釣り界全体の活動に引き続き協力していきます。釣り場の閉鎖防止や開放活動、遊漁船の救命いかだ設置、沖防波堤の渡船禁止、ネオニコチノイド系農薬による淡水魚の減少、特定外来生物問題など、釣り界には多くの課題が存在します。こうした活動に会社を挙げて取り組み、釣り界の未来を守るお手伝いをしていきます。

 2025年は巳年です。蛇は古代から「脱皮」による再生の象徴とされています。2025年は、私たちが新しい会社へと「脱皮」する年にしたいと考えています。また、蛇が地道に床を這うように、私たちも努力を続ける必要があります。蛇が前にしか進めないように、私たちも未来を見据え、前進を続けていきます。

社長の経歴

 (株)タカミヤに1994年(平成6年)に新卒として入社。学生の時、アルバイトに精を出す等、働く事は好きだったが、将来に対して明確な目標や夢もなく、本気で物事に取り組む事がない学生だったそうだ。タカミヤに入社したのも、就職説明会でたまたま話を聞いたのが同社だったから。当時、「ポイント」という釣具店の事も何となく知っている程度だったという。一般社員としてタカミヤに入社したが、新入社員研修後の理解度テストでは最下位に近い成績で、底辺からのスタートとなる。「この時、生まれて初めて無性に悔しいと思いました。研修姿勢や立ち振る舞いを含め、成績が上位の人は幹部候補として、当時のポイントの旗艦店や新規出店先、韓国の店舗などに配属されましたが、当然、私は選ばれませんでした。学生の頃から何かに本気で打ち込む事ができず、社会人になれば変わる事ができると思っていた矢先の厳しい現実でした。『選ばれる人と選ばれない人がいる』。このままではダメだと目が覚めました」と語る。最初に配属された店舗でがむしゃらに働いた。「とにかく仕事で目立って、関東の店舗に配属されなければならない」。そう考え、昼夜問わず猛烈に働いた。

当時勤務していた横浜港南台店

 1996年(平成8年)、念願の関東に異動となりポイント横浜港南台店(以下、港南台店)の店長代行に就任。翌年、1997年(平成9年)にはポイント金沢文庫店の店長。1998年(平成10年)にはポイント横須賀佐原店の店長。そして、1999年(平成11年)から2002年(平成14年)までポイント港南台店の店長となる。この港南台店は驚異的な売上を誇る店舗として有名だが、この店長時代の経験が自分の中で一番強く残っているという。「私はいつも極端に肩に力が入っている社員でした。販売力は誰にも負けない、荷物を運ぶのも売場を作る行動力も体力も、とにかく誰にも負けないという気持ちを前面に出して仕事をしていました。当時、私は20代半ばで、お客様もスタッフも私より年上です。それで、若いからと言って甘く見られないように、なおさら肩に力が入りました。気付かないうちにひどく傲慢な店長になっていったのです」当時の自分は会社や仕事、売場、お客様、商品等に対する愛情は、誰にも負けず、強い思い入れがあったが、スタッフに対する愛情だけが全くといっていいほど欠けていたという。「スタッフが1人や2人辞めても関係ない。自分が倍働いて倍売ればいい」。そう考えて、がむしゃらに働き続けた。その結果、売場は崩壊した。当時、港南台店はパートを含め20名ほどが勤務していたが、店の雰囲気は悪く離職も相次いだ。接客もままならず、欠品も多くなり、お客様の心も離れ、ついには売上も大幅にダウンした。人一倍努力をしてきた上田は大きな挫折を味わった。この結果を受け止め、悩んだ末に全スタッフに謝罪し、「私が間違っていた。心を入れ替えるから、もう一度だけ私に協力して欲しい」と涙ながらに訴えた。この時から港南台店は大きく変わり、国内屈指の売上を誇る釣具店へと変わっていった。

 「当時は、後ろについて来る者が誰もいないという感じでした。私自身が『何か文句があるなら俺よりもすごい事をしてから言え』といった態度でしたから、お店もよい雰囲気になるはずがありません。お店の雰囲気が悪いのはお客様にすぐに伝わります。売れなくなって当然でした。この港南台店の経験が私を大きく変えました。一人が頑張るのではなく、みんなで頑張る。一つのチームとしての営業に目覚めたのです。それまでは自分中心で、スタッフへの思いやりや、心配りなどが、全くできていませんでした。それ以降、スタッフ全員に協力して頂く為には、自分がどのようにしなければならないのか?スタッフ一人ひとりに心を寄せて、常に考えるようになりました。大勢のスタッフの気持ちが一つになった時に生み出されるパワーはすごいものがあります。当然、お店も盛り上がります。その結果、2、3年後には、港南台店は日本一と言われる売上の店舗になりました」 

 その後、地区長を1年間務め、本社小売事業部次長、営業部長、31歳で取締役に就任。常務、専務を経て、2016年社長に就任となった。髙宮会長から社長就任の話があった当初は、社長になることがイメージできず一旦断ったそうだが、ここまで育て、引き立てて下さった会社や髙宮会長に強い恩義を感じていた上田は、話し合いの末、社長就任を決心した。

過去の社長インタビュー

2024年(昨年を振り返り・2024年に向けて)

2023年(昨年の振り返り・環境の変化・2023年の課題)

2022年(昨年の変化・業界の課題)

2021年(新型コロナウイルス・釣りと当社の取り組み・2021年に向かって・デジタル化・初心者をリピーターにするためには)

2020年(2019年について・釣り人を増やす取り組み・2020年の課題)

2019年(平成と今年・消費税増・2019年の取り組み)

2018年(昨年特に感じた事・働き方改革・ネット販売・2018年の取り組み)