TOP INTERVIEW 2021

『釣具新聞2021新年号』より ※記事のご提供:名光通信社様


1.新型コロナウイルス

 昨年の3月以降、全国的に新型コロナウイルスの感染が拡大する中、店舗で働くスタッフから不安の声が上がるようになりました。世間ではコロナ対策としてリモートワークの推奨等が行われていましたが、我々小売業はお客様にお店に来て頂いて接客をする商売ですから、基本的にリモートワークでは成り立ちません。

 新型コロナウイルスは、人類が遭遇する未知の経験であり、その全体像も分からない中で、「ヨーロッパやアメリカではロックダウンが起こり、特にニューヨークでは多くの死者が出ている」といったニュースが頻繁に報道され、当社のスタッフの中にも「このままお店を開いて、釣具の販売を続けて本当に大丈夫なのか?」といった思いを抱く人もいました。

 そのような中で、私は「今、我々に出来る事は、目の前にある釣具の販売を愚直に続ける事しかない」と覚悟を決めて、全スタッフを鼓舞しながら、自らも店頭に立って、スタッフと一緒に釣具の販売を行いました。店舗や本社でも、考えられるコロナ対策は全て行いました。消毒液やビニールカーテン等の設置はもちろん、マスクの確保が難しい状況下でも、社員全員に途切れることなく配布しました。「お客様に感染させない、自分達も感染しない」を合言葉に、一緒に売り場に立って、釣具の販売に精一杯取り組み続けました。

 ゴールデンウィークに入ると、店舗には多くのお客様が来店されるようになり、非常に忙しくなってきました。物流センターにも各店からの発注が急増し、事務方もピッキング作業の応援に回るなど、社員総動員のフル稼働で店舗運営をバックアップしました。

 そうしている間に、世の中の様子が次第に変わっていきました。当社で働いてくれているスタッフからも「社長、お店を閉めないで営業を続けて下さい」と声を掛けられました。以前は不安の声を上げる人が多かったのですが、世の中の景気が悪くなり、業種によっては賃金のカットや非正規雇用者の雇い止めなども起こってきたからです。

 その時、私は2016年に起きた熊本地震の事を思い出しました。周辺の小売店は全て閉まっている中、当社の店舗は最低限の復旧を完了させ、地震発生から2日後には営業を再開しました。ポイントには氷や灯具、クーラーやバケツに長靴なども販売していましたし、店舗を開ける事で地域全体の役に立てると判断したからです。その時も、スタッフから「朝起きて仕事に行ける場所があるということが本当にありがたいです」と感謝の声を掛けてもらいました。

 今回のコロナ禍や自然災害など、未曾有の事態に陥った時にどうすればよいのか。それは、「目の前にある自分達が出来る事を一生懸命やること」これしかないのです。先の見えない状況下で、目の前にある釣具の販売を愚直に行っていくという「覚悟」を全スタッフにしっかりと示す事です。不安な状況の中で覚悟を決めて、ひたむきに目の前の仕事に取り組み、全社員が一体となった事で、連帯感が生まれ、一層結束が強まった結果が、昨年の好業績に繋がっていったと思います。

 また、スタッフの会社への信頼感やロイヤルティも高まったと感じています。会社としては当然の事をしているだけなのですが、パートさんからも「このような状況の中でも働けるのは本当にありがたいです」、「マスクやアルコールの支給から、コロナ手当の給付と、ここまで我々の事を考えてくれてありがとうございます」と感謝の声を頂くなど、こちらの思いを皆さんが真摯に受け止めてくれました。そうすると、社員やパートさんも、今度は「自分達が何をしなければならないか」を考えるようになり、積極性と責任感が生まれてきました。危機的な状況の中で、皆さんの結束力と行動力に支えられて乗り越えることができたこと、社員全員に心から感謝しています。

 昨年は、業種によっては、頑張りたくても頑張れない状況も多かったと思います。しかし、釣具を販売する我々は、頑張ることができる大きなチャンスを頂きました。せっかくチャンスがあるのだから、頑張らなければなりません。業績を伸ばす事で会社も社員もしっかりと税金を納められますし、雇用の継続や拡大が出来、社会に貢献できるのです。世の中のためにも、今は頑張れる人が頑張ることが重要だと考えています。

2.脚光を浴びた釣りと当社の取り組み

 さて、2020年は3密を避けられるレジャーとして釣りが注目され、多くの人々が釣りに関心を持つようになりました。4月以降、当社は3つのキーワードを掲げて、新しいお客様への取り組みを行いました。それは「初心者」、「ファミリー」、「セルフ」です。

 初心者やファミリーの方には、手間をかける事を惜しまず、親切・丁寧な接客を大切に考えて行動しました。そのひと手間が、初心者やファミリーの方に釣りを続けて頂くための重要な要素になると考えています。同時に、既に釣りを楽しんでおられる方には、コロナ対策の意味からも、セルフで購入して頂きやすい売り場の整備にも努めてきました。

 ただ、新しいお客様が増えたのはとても嬉しいことである一方、釣り場のゴミ問題が頻繁に発生しました。ゴールデンウィーク中には他府県の釣り人の来訪を断る港も出てきました。当社も会社をあげて、お客様へのマナー啓発に取り組みました。ゴミを引き取ったり、ゴミ袋の配布やポスターの掲示をしたりするなど様々な施策を行いました。しかし、お客様に対して、釣りのルールやマナーをどうすればより分かりやすく伝える事が出来るのか、まだまだ改善の余地があると感じました。

 もう1つ、昨年の特徴として天候が非常に安定していたことが挙げられます。近年これほど天候に恵まれた年はありません。この事が釣り界にとって追い風になりました。いかにアウトドアブームが到来しても、台風が相次いで上陸し、天候不順であれば、お客様が釣りに行きたくても行ける状況ではありません。天候には本当に感謝しています。

 また昨年は、これまで磨いてきた「物流力」、ロジスティクスが成長に大きく寄与しました。物流力は商品を手配して物流センターに取り込み、タイムリーに適切な数量を供給する事が使命です。物流は売れ筋の商品や、今後売れる見込みのある商品の手配から始まります。その商品を物流センターに格納し、それぞれの事業所をオンラインで結びながら、必要な数をきちんと届ける。そして、店舗やECではしっかりと品揃え、陳列を行い、お客様に商品を確実かつスピーディーにお届けする。こういったモノの流れをいかに計画的に行っていくかが大事なのです。単なる倉庫や配送センターとは考え方が全く異なります。戦略、戦術、そして行動力が必要です。こういった物流力を磨いてきた事が、今回、大きな加速を伴って成長できた要因の1つだと考えています。

 そして、当社が大きく飛躍できた要因としては、物流力を研鑽し、現場に正確かつ安定して商品を供給する事に傾注してきた事に加え、これまで店舗ロゴやキャラクターのブラッシュアップなどVI(ビジュアル・アイデンティティ)の整備を行い、店舗のレベルを高め、人財教育を徹底し、ポイントにふさわしいスタッフを育ててきた事によるところが大きいと思います。今まで取り組んできたことの成果があったからこそ、昨年の飛躍に繋がりました。これまでの取り組みに協力してもらった全社員、全関係者に感謝しております。

 今後、「ウィズコロナ」が続く中で、釣りへの関心は高い状態が続くと思われます。新たに釣りに興味を持たれた方に、釣りの楽しさを知ってもらうにはどうすればよいのか。せっかくの釣りに注目が集まっているこの機会を、当社としても最大限活かす事に尽力してまいります。 

3.2021年に向かって 

 昨年、2020年は年初に下記の5つの目標を掲げて取り組んできました。

 1・経営の規模ではなく質へ 利益重視の営業活動

 2・デジタル領域にて確固たる地位を確立

 3・異常気象、災害級の悪天候が毎年続く中での営業活動の在り方の見直し

 4・人財育成の強化、生産性と業務効率化の追求

 5・過剰化傾向の在庫への確実な対応

 

 2021年はウィズコロナで不透明、不確実な時代が続いていく中で、これらの目標を継続して実行していきます。そして、様々な事が変化していく中で、スピード感が一層求められていると思います。お客様から「釣りと言えばポイント」と選ばれるお店になるよう、頂いたチャンスを大切に、コロナ禍の中、全力を尽くしていきます。

 

 本年、2021年のテーマは下記の通りです。

1・不透明、不確実な時代だからこそ、選択と集中そして組織の連帯感を大切にする。
この流れは続くものと思うが、アフターコロナでどれだけのお客様に釣りにとどまっていただけるかが課題、この課題に全力で取り組む。

2・釣りの楽しさと、まずは一匹を釣るためのお手伝いをさせて頂くために全力を尽くす。

リアル店舗、デジタル領域でもお客様に寄り添うしなやかなサービスを提供し、一番に選ばれる会社、お店を目指す。

3・強靭な物流力へと更なる強化に挑戦。生産性と効率性を追求しつつ、SCMの更なる拡充とロジスティクス能力向上で、商品の確保からお客様へ商品を確実にスピーディー且つロスを最小限にお届けする。

4OMO、デジタル領域に積極的な投資を行う。デジタルを次の成長エンジンへ、業務をデジタル化に合わせてデザインする。OMO・・・(Online Merges with Offline オンラインとオフラインの融合)

5・いついかなる時代であっても人財は会社成長の要、人財教育、人財採用、人財登用の更なる強化。

6・経営の質の強化を図る。利益と効率化の徹底追及重ねてキャッシュフロー経営を重視。

以上、6つの項目を掲げ、アフターコロナの時代を見据えた取り組みを強化していきます。

4.デジタル化

 コロナ禍により、当社でも会議や研修をオンラインで行うことが普通になりました。実際やってみると、社内会議等はオンラインでも十分に出来ると感じました。しかし、それは人間関係が構築されている事が前提です。たとえば就職活動をされている学生さんにとっては、オンラインでは当社の社風や企業規模、職場の雰囲気などが十分に伝わりません。社員研修でも、キャリアのある人にはオンラインでもこちらの考え方が伝わるのですが、キャリアの浅い方にはオンラインでは伝わりにくい事が良く分かりました。組織の縦と横の絆で織りなす連帯感は、リアルでなければ生まれません。今後は新入社員をはじめとする社員研修も、状況が許せば可能な限りリアルで開催していければと思っています。

 また、昨年はオンラインの商談も増えましたが、今後全てが急速にオンライン化していく事はないと思います。商談にしても、実際にサンプルを手にしながらお互いに直接出会って行う方が、得られる情報も多いからです。

ただ、リアルだけが全てではありません。今後はオンラインの良い部分もしっかり取り入れていく事が重要になってくると考えています。世の中のデジタル化やデジタルマーケティングが加速している事を当社はチャンスと捉えて、アプリの開発などOMOを着実に進めていきます。

5.初心者をリピーターにするためには

 「釣りをしたい」と思いついたお客様が当店を訪れて頂けたら、本当にありがたいことなのですが、釣具店を訪れる事自体が、初心者の方にとっては大変敷居の高い事だと思っています。最初から、ECで購入される方も多くなっています。そのような中で私共を選んで頂いたことに感謝し、これをチャンスに変えていかなければなりません。アフターコロナになって、どれだけの方が釣りを趣味として愛して頂けるか、まさに今が勝負どころです。釣りの楽しさの提案を行い、釣りのマナーなども知って頂き、願わくは実際の店舗にも来て頂きたいと思っています。

 今年、当社がリリース予定のアプリは、スマートフォンを活用して、釣りをデジタルコンテンツと融合させてより楽しくしていきます。釣り方の説明等はもちろんのこと、釣りコミュニティを作り、ダービーへの参加を誘い、釣果の自慢もしてもらいながら、釣りの楽しさ、マナー等も併せて、新しい形で釣りの文化を伝承していきたいと思っています。

 また、初心者の方にリピーターになって頂く上で気にかかることがあります。それは、初心者の方の多くがサビキ釣りから始められる事です。サビキ釣りは確かにお手軽に釣ることができるのですが、本当に良く釣れるのは秋の限られた時季だけです。例えば、ゴールデンウィークにサビキ釣りをしても釣果に恵まれない場所が多いと思います。これで本当に釣りを楽しんで頂けているのか疑問です。

初めて釣る魚は、小鮒でもブルーギルでも手長エビやチヌでも良いと思うのです。季節によっては、回遊性のアジやイワシより簡単に釣れる魚種があります。せっかく釣りを楽しみたいという方に、どのような釣りを提供できるのか、様々な情報と合わせてご提案ができる様に、初心者の方が最初の1尾を釣って頂きやすい環境を整えていく必要があると考えています。

最後に、西日本釣り博の実行委員長としてお話させて頂きます。

 昨年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、やむを得ず開催を中止させて頂きましたが、西日本釣り博の良さは、磯釣り、船釣り、ルアー釣りなど様々なジャンルの熱心な釣りファンの方が来場される事です。メーカー様やアングラーの方々もこの熱さをダイレクトに感じられるからこそ、お客様と出展者が一緒に盛り上がり、ショー全体の熱量が上がります。しかし、これはやはりリアルでなければ体感できないと思います。この熱さを直接伝えられる環境になれば、しっかりと開催させて頂く予定です。横浜や大阪のフィッシングショーとも連携を取りながら、一緒になって釣り界を盛り上げていければと考えていますので、その際は引き続きご協力をお願い致します。

 末筆となりますが、改めてお取引先様各位の格別のご支援ご協力に対し、心より感謝申し上げます。本年も引き続き、旧に倍してのご協力をお願い申し上げ、年頭のご挨拶とさせて頂きます。